商談・交渉の心構え ~ある中国駐在員の手記~

お仕事あれこれ

 

こんにちは、しゃんはいさくらです。

皆さんは、会社や組織を代表して中国側との交渉に臨んだ経験はおありでしょうか?

両国の考え方の違い、交渉スタイルの違い、本社の無理解など、多大なストレスを抱えながら交渉に当たられた方は少なくないと思います。

今日は2年ほど前に旧ブログで書いた記事「オシゴトのハナシ ―ある駐在員の手記―」をしゃんさく.comにてリライトしてお届け致します。

時を経て、マーケットには大きな変化がありましたが、中国人の考え方はそれほど大きく変わっていない、今でも十分に参考にして頂けると思い記事にしました。

中国とはどんな国なのかを知る上での何らかのサポートになれば幸いです。

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手記との出会い

2年前のある日、私は会社で古い資料を整理していました。

今でこそ、ほとんどの資料は電子版で保存されていますが、00年代はまだペーパーで資料を残す習慣が残っていて、特に今回紹介するこの駐在さんは、手書きのメモなどを含め、資料という資料は全て紙で残すタイプの方だったため、それなりに膨大な量がありました。

会社の会議資料や議事録は決められた保管期間をとっくに過ぎているし、中国で残しておくにはやや危険と思われる日本本社の極秘資料はおそらく本社が保存しているだろうと思ったので、この際思い切って処分しようと、資料の1つ1つに目を通し、シュレッダーするものと残しておくものとを仕分けすることにしました。

その時に資料棚の封筒の中からこの手記を見つけたのでした。

 

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時は15年前まで遡る

この手記は恐らく2005年頃に書かれたものだと思います。

この駐在さんは2003~2008年まで中国に駐在していたのですが、文面を見た感じでは、その駐在期間中にある団体から講演の依頼を受けて作成したような書き方でした。

あの方らしい、内容はすべて手書き。すごい資料です。

国を跨ぐ交流や交渉事はまずは人数を合わせることから気を使いますが、少人数の精鋭部隊で交渉に臨んでいた日本側は中国側と比べて交渉に参加できる人数が限られるため、この駐在さんは上級管理職だけど、実務層レベルの交渉にも顔を出していたようで、手記には交渉の苦労話がたくさん盛り込まれていました。

 

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しょっぱなから中国あるある

手記の最初にこう書かれていました。

中国人の(合弁相手の)幹部級以上は原則論や総論にこだわる傾向が強く、実務層は担当領域以外のことにはまるで無関心。

内容により交渉相手が入れ替わることが多く話をまとめるのに苦労した。

中国人に対する伝言メッセージは全く伝わらないものと心得よ。

あー、解ります、これ。

私は通訳という立場ですが、日中の交渉事に参加した経験から言うと、「あれ、この言い分、前も訳して確かあの人はこう答えたよな?でもこの人は別の返事だな」という場面に何度か遭遇しているのです。

同じ内容を複数の人にそれぞれ説明しなければいけないのは中国あるあるです。

また、手記には、一旦合意したと思っていたことがいつの間にか振り出しに戻っていたことも度々あったと書かれていました。

 

日中が双方納得できる文書を残すことの難しさ

契約書=文書に残すことであり、責任の所在が明確にされることを嫌う中国人は、約束事の文書化を極度に嫌う傾向にあります。

合意→文書化→表現の細かなやりとり→契約書(議事録、覚書)締結 という流れに、かなりの忍耐を要したことが手記から伺えました。

私は今、その苦労の元に生まれた契約書に基づいて仕事をしていますが、文言に対する理解が今になって違うと判明することがあり、私は通訳という中立の立場ですが、その立場から判断しても「そんな都合のいい解釈あるか!?」と思うようなことを平気で言ってくるので、中国で中国企業と事業をすることがどれだけ難しいか、当時の交渉役の方たちの苦労を感じました。 

人(立場)による理解の相違は本当に難しい問題です。言葉的には日本語の〇〇は中国語の△△という言い方で合っているのですが、解釈によって全く別の意味に取られてしまうことがあります。

思わぬところに誤解の種が潜んでいる可能性があるので、文面が合意に至ったからと言って、全てが丸く収まっているとは限らないと認識しておくのが良いと思います。

 

「自分は永遠に悪くない。悪いのは常に相手である」

これはある意味、中国人を理解する上での原則論みたいなものでしょうか。日本側への提言と書かれた小テーマの冒頭に書かれていたのがこの言葉です。

そしてその言葉に続くのが、「日本はマイノリティーであると心得よ」でした。

普段の生活で中国人の言動に「えー?そう来るか?」と思うことは山ほどありますが、それは逆に相手からもそう思われている可能性があるわけで、日本人の「えーっ?」は、中国人の“啊?”なのでしょうね。

一衣帯水の隣国とは言いますが、ただ見た目が似てるだけで頭の中は全くの別人種と思うべきです。

手記には、

「あわてず、あせらず、あきらめず、あなどらず、あてにせず」で交渉に臨みましょう

と2度も書いてありました。

こちらの願望や思い込みで相手の出方を推測すると思わぬ誤解や事故の元になります。

日本の考え方が全てではないと客観的に判断することが大事なのでしょうね。日本本社側の説得を考えると計り知れない壁が待ち構えている気がしますが・・・。

 

宴席の使い方

日本流の「お酒の席」の使い方も注意が必要と書かれていました。

「お酒の席」=非公式交渉は、それがうまく行くこともありますが、失敗するとこちらの手の内が見破られてしまう行為だとも言えます。

中国専門家の中には、キーマンとお酒の席を設けることで交渉が前に進むと解く人もいますが、この手記では、「飲食を伴っての議論が必ずしも表の議論に発展するわけではない」と書いてあり、相手に対する見極めが非常に大事であると解かれていました。

 

一番胃が痛い本社側とのやり取り

この駐在さんは、事業交渉の日本側代表として、常時本社側幹部との連絡役も務めてたのですが、

自分に与えられている権限にガラスの天井があったこと

プロジェクトの総まとめ役がおらず、個別に各部門(営業、法務、財務、知財etc)と意見調整をしなければならなかったこと

幹部説明の根回しや日程調整がとても大変だった

ことを手記に記していました。

日本企業はこのあたりを改善しないと、スピードの速い中国の事業では遅れを取りかねません。

自分に与えられた権限が不十分な為に、わざわざ本社に持ち帰って各部門の責任者を交えて議論し、更に各部門の管掌幹部にも報告。

確かに必要な仕事ではあるものの、かなりのパワーと時間を要したようです。 

プロジェクト体制構築の際に、

プロジェクトリーダーとなる人への権限開放

先方へのデータ開示可能範囲

絶対確保すべき条件とできれば確保したい条件の区分け

交渉要件優先順位の共有化

が、社内でどれだけできているかがカギかと思います。

 

「やらない」選択肢を持っておく 

中国進出することが「絶対」ではなく、原則論が通らない場合は、進出の取りやめも常に考慮に入れておくこと。

手記にはこうも書かれていました。

それぐらいの覚悟がないと、中国企業との交渉では足元を見られてしまうのですね。

中国側は自分たちのマーケットの優位性をよく知っていて、上から目線で交渉に臨んできます。

そこで足元を掬われない為にも、交渉がうまくいかなかったらその企業とは組まない選択肢を作っておくことも大事だということですね。

日本の幹部とはそのあたりの線引きをしっかり摺り合わせて交渉に臨むべきだと書いてありました。

でも、難しいんですかね?

ウチの会社、あの交渉から10年以上経った今でも、現駐在さんたちは中国側とのやりとりよりも日本側との調整に一番精力を注いでいるように見えます。。。

 

中国を理解する≒共産党を理解する

日本人にはなかなか理解し難いのが中国共産党です。

ウチの日本側親会社は改革開放前から中国企業といろいろな事業に携わっているそうですが、今でも中国共産党に対する理解が進んでいないと感じます。

外国で事業をするにあたってその国の法律、ルール、習慣などを理解し、受け入れる必要がありますが、中国の場合、その他にもう1つ「党」という厄介な存在があります。

特に現体制の中国では、何事も政治(党)優先、グローバルスタンダードなんてありません。

中国の党組織は縦の序列にかなり縛られており、上長の意志、指示は絶対です。担当者レベルではOKだったのに、上がNOと言えば、すべてNO。

企業(個人)同士では合意に達したのに、お役所にNOと言われたら、それをYESに覆すには相当の人脈を駆使してネゴシエーションして、それが成功するかどうかという世界です。

手記には、「トップ交流は極めて重要であり、交渉相手の実務層がどのように情報を上げているかをチェックするのも非常に大事である」と書いてありました。

トップ交流で原則論や方向性が一致できれば、あとは実務層で擦り合せをするだけになるので(その擦り合せもとても大変ですが)、トップ交流は是非とも戦略的にセッティングしたいところです。

交流のタイミングと何を話してもらいたいかを明確にすることが大切です。

そのためには、

十二分な交渉準備とキーパーソンの見極め(複数存在する場合あり)

キーパーソンとトップの仲良し度把握

キーパーソンの管掌範囲の把握

キーパーソンとその他関係のいい人物の把握

キーパーソンの職位に匹敵する当社側の幹部人選

その幹部に対する事前の情報入れ込み

が非常に重要であると書かれていました。

 

情報開示はないものと心得よ

共産圏の国にありがちな、情報開示に対して非常に閉鎖的な点も忘れてはいけません。

情報を開示することによる自分への責任追及を避けたい傾向にあるので、残るものは基本的に出てこないつもりで交渉に臨まれると良いと思います。

特に日本側は本社幹部を説得するためにデータや根拠を必要とするため、中国側に相応の資料を要求するのですが、日本が要求するレベルのものはまず出てきません。口頭ベースでも情報を聞き出すのに苦労したようです(それは今も変わらずです)。

 

交渉現場の人選と人数

交渉には、各方面の専門家を集めた包括的な交渉と、最低限の人数に絞った具体的な交渉があります。

日本人にも同じことが言えると思いますが、中国人の場合、人が多いとより仲間を意識(警戒)した発言になりがちで、本音の議論になりにくいようです。

交渉の中身を考えてこちらの人選をすること、もし可能であれば、相手の人選の希望を伝えることも大事かと思います。

  

忘れてはいけない心のケア

手記によると、交渉に当たった部下たちの心のケアがとても大変だったようです。

交渉なので忍耐が必要なのは当然なのですが、プロジェクト交渉の経験が浅い、若いスタッフの中に精神的に参ってしまった人が数人いたようです。

協議の度に新しい提案が出てくる

協議の度に違う人が出てくる

協議の度に同じことを何度も説明する

意見がコロコロと変わり、ちっとも本質の議論をしない

180度違う意見になったとしても悪びれない

などといった先方の態度に触れて、俺たちはこんなに根回し(日本幹部への事前説明)してるのに、なんだコイツら!?という気持ちが重なり、体調不良、精神不良に陥るのです。

この方が当時どのように対処したのかは手記には書かれてませんでしたが、相手のスケジュールを把握して相手を焦らせることが大事だとは書いてありました。

また社運をかけた重大プロジェクトを背負ってるとは思わずに、手記にもあったように撤退(不進出)するという大胆な決定も選択肢の中に残しながら交渉すると良いかも知れません。

これは私の個人的な意見ですが、もしプロジェクトが失敗して会社にいられなくなるような仕打ちを受けたとしたら、そんな会社とは早く見切りをつけ新しい道を進めばいいのです。

人生で一番大事なのは自分や家族であり、会社ではないことを忘れてはいけません。

  

一目瞭然!?日中対比表 

手記に書かれていた日中対比表を再現しました↓

正直言うと、私が抱いている中国人像とは違うことが書かれていると感じました。

例えば日本側の「さっぱりしている」、「大まか」とか、中国側の「せこい」とか。

日本側の方がよっぽどせこいんじゃないかと思っていたのですが、手記を読みすすめていくうちに、中国側が合意して明文化したにも関わらずいつまでもしつこく食い下がるあたりが、せこいと感じていたんだと理解しました。

皆さんはこの対比表を見てどう感じられましたか?

  

最後に

手記全体を見通すと、日本本社側がすべき心構えや事前準備について随分と多くのことを書いてらっしゃいました。

本社のトップたちはグローバルな視点で中国を世界のマーケットの中の1つとして捉え、いろいろな指示や決断をしてるとは思いますが、中国特有の事情を理解していない為に(理解できないとも言える)、説明に大きな精力を注いだことを残念に感じていたようです。

また、中国は〇〇であるというメディアに踊らされた先入観を持って交渉に当たってはいけないとも書かれていました。

この方、今は既に定年退職されてご隠居生活をされているのですが、現任駐在さんの元上司だったそうで、裏で顧問的役割を果たしてくださってるそうです。

家にいて暇だからメールのレスポンスがいつも一番に返ってくるのだとか。心強いですね。

以上、商談・交渉への心構え ~ある中国駐在員の手記より~ をお届けしました。

 

いろんな中国像を共有することはお互いの勉強になると思いますので、皆さまの中国体験も是非コメントくださいませ。お待ちしております。

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