お仕事あれこれ

AIは言葉の壁を打ち破るのか!? 現役通訳者がAIを考える

2018-08-31

新聞を読んでいると時折記事に出てくる「AI」「通訳」のキーワード。

「AI」と「通訳」の関係如何によっては、私の生活に大きく影響することなので、これまでも何度か記事にしてきました。

「通訳」という職業はいずれなくなるのか?

果たしてAIは本当に通訳の代わりになり得るのか。現役通訳の立場からあれこれ考えてみました。

AIが得意とすることとは?

私はこれまで10年ほど通訳・翻訳の仕事を続けています。通訳・翻訳業の初期の頃は中国の法令や中国語で書かれた調査レポートなどを翻訳する仕事をメインにしていました。

法令は難しい用語などはあるものの、文の構成はわりと定型的な部分があり、やりやすいと思えることもありました。

当時の経験から考えてみると、法令のように文の形式に比較的法則性があるものや、一般的な文章の翻訳は、これからAIの力が存分に発揮できる分野なのではないかと考えています。一定分野の翻訳経験を積ませれば、瞬時に人間の翻訳をはるかに超える高い精度の翻訳が完成できるのではないでしょうか?

一方で、人の感情表現や細かなニュアンスが必要となる小説などの翻訳については、AIはどのように経験を積んで能力を発揮していくのか、私には想像がつきません。

原作が訳者の表現の違いによってそれぞれ違う趣の作品に生まれ変わるのが翻訳作品だと思うのですが、空気を読んだり雰囲気を感じたりすることを苦手とするAIがどのような作品に仕上げてくるのか?今後はニンゲン作品とAI作品がしのぎを削る時代が来るのでしょうか?

もしそんな時代が来るのなら、いつかニンゲンの翻訳作品とAIの翻訳作品を比べ読みしてみたいです。以前読んだ新聞記事では、国際会議の場でAI通訳が登場するかも知れないのが2024年だと書いてありましたが、翻訳分野でAI作品との読み比べができるようになるのはいつのことになるのでしょうか?通訳よりも先でしょうか?後でしょうか?

既に一部で実用化

AIとは少し違いますが、精度の高い通訳デバイスとしてこんな商品が既に世の中に出ています。以前私のブログで紹介したことのある、「ポケトーク」という通訳デバイスです。

74言語対応の通訳機「POCKETALK W(ポケトークW)」

この商品、初回生産分はすぐに売り切れてしまったのだそうですね。今でも予約販売が続いていて、人々の関心の高さが伺えます。

この通訳デバイスはインターネットのある環境でしか使えませんが、状況に応じてクラウドから必要な情報を取り出して最適訳をアナウンスしてくれるスグレモノ。反応スピードもそこそこのレベルを有しているのだそうで、外国人と話をしているような感覚で会話が完成できるのだそうです。ある意味、我々通訳の敵とも言えますね。

つまり逐次通訳(話者が話し終わったら通訳が訳語を伝える交互通訳方式)であれば、AIでなくとも既に商品化されている技術があるということです。

これにAI機能が加わって機械自身が考えて訳語を提供するようになれば、一段と質の高い会話や交渉が成り立つかも知れません。(一方で空気を読むことを苦手としているので、交渉の結末が大変なことになる可能性も秘めています。あくまでも個人的意見ですが。。。)

同時通訳メインの職場に移り、、、

さて、現在の私は通訳業務の7割が同時通訳(会議のウィスパリング通訳)という職場にいます。日頃同時通訳をしていて思うのは、これほど臨機応変力が求められる仕事をAIがこなせるのかということです。

例えば、基点言語が中国語で日本語に訳す状況の場合、言語的特徴を考慮すると中国語→日本語の段階で言葉のボリュームが約1.3~1.5倍くらいになります。同時通訳の場合、これを如何にして意味を削ぐことなく圧縮して中国語の句点と日本語の句点のタイミングが離れすぎないようにするかを考えなければいけません。

私もまだまだ未熟でどうしても中国語のテンポに追いつかずに、内容を要約してなんとか中国語と日本語のいい終わりを合わせることがありますが、これも臨機応変にその場の雰囲気や内容の重要度などに応じて、削ぐところを判断しながら対応しています。こうした判断がAIにできるのかしら?と思うのです。

AIだったら同時通訳であれ逐次通訳であれ、きっと訳出し率(※)は100%に近い数字になるでしょう。でもそうすると訳出しが完璧な分、話し終わりのタイミングに大きなズレが出てくると思うんですよね。AIの学習能力を通じて、削いでいい部分を判断できるようになるのでしょうか?

※基点言語から目的言語に訳される場合にどれだけの内容が反映できるかの割合。人間の場合は、基点言語をただ繰り返すだけでも100%は難しい。筆者の肌感覚として、高い能力を有する通訳者であれば、逐次通訳の場合は8~9割、同時通訳の場合は7~8割程度訳出しできていると思われる。

ニンゲン通訳として

今回読んだ新聞記事では、2025年程度を目処に同時通訳分野にAIが進出してくると書いてありました。とは言え、2025年にすぐに実用化するわけではなく、まだまだ研究が進んでいくものと思われます。

以前通訳の先生が中国語通訳者の高齢化について話していて、現在若い世代の通訳の成り手が減っているとおっしゃってました。今回のように「AIが打ち破る言葉の壁」なんていう記事が頻繁に出てくるようになると、通訳という職業は今後淘汰されていく仕事として人気がなくなっていくのも当然の流れかも知れません。グローバルな時代になり、人々が言葉の壁なく他人の介入なく意思疎通したいと求めるのも自然なことですが、今後果たして本当にニンゲン通訳がいらなくなるのか。

私の感覚としては、技術がある程度成熟しても実際にニンゲンとAIがうまく共存できるのかはまだ未知数ですし、ニンゲンが慣れる期間も必要だと思いますし、身近な場所で運用されるようになるのはまだ先のことではないかと思っています。

少なくとも私は定年まではこのまま通訳業務に携わっていき、ニンゲンでしか再現できないその場の雰囲気作りなどを含めた円滑なコミュニケーションを成立させる通訳として頑張っていきたいと思っています。

以上、AIと通訳について最近感じたことをまとめてみました。

AIとうまく共存できるようにするにはどうしていくべきか。今後の動向にも絶えず注目し、都度考えていきたいと思っています。

 

 

スポンサーリンク



役立つ情報盛り沢山!
他の上海ブロガーさん記事はこちらから↓
PVアクセスランキング にほんブログ村
  • この記事を書いた人

しゃんはいさくら

2004年~大連留学を経て、2005年~上海在住。 現在、夫、日中MIX子ども×2、義母の5人で生活してます。 会社でも家庭でも中国人に揉まれながら、のらりくらりとやってます。

-お仕事あれこれ

© 2020 しゃんはいさくら